setas

第二章峠茶屋

夜の八時半を過ぎたというのに、食事をとらせてくれる一本フォークのバルの主人が窓辺に寄りかかり、ぼんやりと石畳の通りをながめて暇そうにしている。
「開いているのか」
もちろんだ!入ってくれ」

入口からいきなり二階への階段をのぼるとかなり広い。今日も暑かったが絵の具はうまくのった。とにかく飯でも食って早く眠りたい。そういえば地元の人たちにはまだ早すぎる時間帯だ。私が初客とあっておやじさんも愛想がよい。
「急に暑くなってきたから今年のブドウはよいようだ」
「ちょっと乾きすぎじゃない?」
「この乾きぐあいなら実割れもせんだろう」

ブドウは、春に雨が多く六、七月に暑い日照りがつづくと糖分を増しうまい酒になる。だが乾きすぎると実がパンクしてよいワインはできない。
「ところで、赤か?」
「まずはビールといくよ。タパスはなにがあるの」
「食いたいものを言ってくれ。なんでもつくるよ。そうだ、コチニーリョを揚げたのはどうだい?」
「おっ、仔豚があるのか。それはいいな!」

気が乗ってきた主人がすすめる料理はまず間違いなくうまいものだ。

(ニ)峠茶屋