farola

第一章大地と心

足元に置いた筆洗い用の松根油が、沸騰直前の熱湯のように熱い。

どうしてこんなに暑いのだろう! 両腕の皮膚がイワシの干物そっくりに小じわ立ってきた。おまけに塩まで吹きカサカサになった肌は、揉んだ和紙を貼りつけたようで自分のものとは思えない。乾燥するとよけいに渇きを感じるので、唇だけは前もってリップクリームで保護したが、曇り空に油断してTシャツで出かけてきたのは大失敗だった。もう一片の雲もない高い高い紺碧の空ばかりじゃあないか! 暑い! 暑い! ほんとうに暑い!

天と地の間の空間を国語辞典では「空」と定義している。仏教やキリスト教では地上からはるか遠く高いところをさして「天」と呼び、そこに仏や神の世界を見いだす。そのことをまじめに受け取れば、どこまでも透明なコバルト色に包まれたスペインの空は、天地の間でもより限りなく天に近いのではないか!? むかしむかし、インドや西アジアの高原に住む人々が清らかな空のもっとかなたに神々の居所があるんだ、となんの疑いもなく信じこんだのを、私はすこしも不思議に思わなくなってきた。あまりに鋭いコバルト色の輝きに冷たささえ感じる。すーっと吸いこまれそうなこの限りなきスペインの空が私は無条件に好きである。

暑い、というより熱い! どうしようもなく熱い!

(一)大地と心